私の周りには、アクティヴ・シニアが大勢いる。七十歳から九十歳近くまで、男女さまざまで、職業はリタイアした会社役員、アーティスト、サラリーマン、自営業、大学教授など。この人たちはみな独立的で行動的、自宅に暮らして料理し、クリエイトする権利を確保している。
九十歳近い指圧師の女性、岸さんは一人暮らし。元々港区の住人だから「老後は田舎で」なんてどこ吹く風、港区に暮らしている。質素なアパート住まいで、その埋め合わせを、大洋村のコテージへ畠作りに出かける。作物は岸さんの食卓をにぎわし、うちにもたっぷり分けてくださる。買い物上手で、
「渋谷市場は安いのよ」
うちへ来るついでに寄って、生鮭の切り身やいちごを買ってきたり、餅つき機で作ったお餅もくださる。こちらもお料理や到来品を分ける。
もう一人は、ニックネームがほら吹き男爵という男。話が面白おかしくて大きいから。横浜のマンションを人に貸して、大森の小さなところへ移り、身軽になって絵を教えたり、楽しみに料理をしている。二十年以上やもめ暮らしをしたから、料理の手際はなかなかのもの。男は女に依存しないと、このぐらいはできるというサンプルでもある。
ときおり彼から電話がかかってくる。
「デザートいる?」
「何つくったの?」
「いちごのジェリー」得意そうなくすくす笑い。
「すごいじゃない! 欲しいわ」すかさず言う。
「丸梅に教わったいちごを、開新堂風のジェリーにしたんだ」
私も急いでお返しを考える。
「昨日つくったカブとカブの葉のポタージュがあるわ。いる? それと幕別町の長芋。生のよ」
「いただくよ。スープは自分で作らないから」
彼の言う丸梅は四谷にあった名女将のやる小さな料亭、開新堂は麹町の菓子とフランス料理の老舗。
ほら吹き男爵は、こってりした和風が得意だ。
彼が分けてくれたお料理には、青菜と豚の三枚肉の煮込みや、すじ肉を煮た汁を使って煮た里芋があった。豚も里芋もおいしくて、女たちがレセピを欲しがった。ジェリーも上手で、夏はグレープフルーツ、いまはいちご。赤ワイン煮の果物はおいしいものだが、彼はそれをいちじくでやるのが得意。
「どう、いちぢくの煮たのいる?」
いちぢくは私も娘も大好物、ふたつ返事だ。不思議なことに、彼からもらって、うちでもそのレセピで作っても、同じにはいかない。料理には相性があるのか、それぞれお得意があるのが、面白い。
彼が最近、気に入ってるのに、私のチーズケーキがある。これは失敗を重ね五回目に成功したのだが、失敗作から食べていて、
「おいしいね、あれは! レセピくれない?」
彼もチャレンジすると言う。
「じゃ今度ね」言ってから気づいた。「あれはムリかも。面倒なのよ。クリームチーズやサワークリームを計らないとダメだし、まぜるのにバミックスがいるの。手ではムリ。上げるわよ、作ったら」
こんな風に私の「分け友達」は続いている。明日は岸さんという今、上げるお料理は? と考え中だ。
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