ジジは食べ物のハンターだ。まだうちに来たての生後三ヶ月のころ、キッチンで、たたきにしようと小アジをひろげていた。ちょっとの間、目を離した隙に、ジジはひらりと飛び乗って一匹かすめ、床でムシャムシャやってるのを発見。子猫には、小アジといっても結構な大きさ。まださばいていない、骨つきのをそのまんま。
ウグッと言ったのは、骨がつかえたらしい。娘は飛び上がって、
「ママ、たいへん! ジジが」
叫んでる間に、彼女はしっかり呑み込んで、けろりとしていた。以来、ジジには「ハンター・キャット」の冠がついた。勇敢な美女のメス猫だ。
オスのリュリュは食欲では、遠くジジにおよばない。マンガの「動物のお医者さん」の動物の主人公、ハスキー犬のチョビと似て「いいの? いいの?」といつもおずおずしている猫。こわがり屋なのだ。
「この子はきっと、大勢のきょうだいと暮らしてたら、エサにアクセスできないで、やせちゃったわね」
「うちに来てほんとによかったのよ、リュリュ」
ニンゲンは恩をきせる。ところがリュリュには別のハンターの才能があった。ネズミ獲りである。軽井沢でのこと。ある晩、廊下をスーっとリュリュがやってきて、食堂の私たちの足下に置いたのが、小さなベージュ色のネズミ! ちゃんととどめを刺すからすごい。彼の株はだんぜん上がった。
猫で頭を悩ますのは、彼らは美食家だということ。同じエサがつづくと、プイっと横を向く。だからいろんなエサを用意して、とっかえひっかえ出さないと食べてくれない。
ペット産業は大繁盛、なかでも猫の餌はすごい。カラーのパンフレットを送ってきて、ファクスで注文すれば配達してくる。レトルトパック、ドライフード、缶詰がずらり。子猫用、シニア用、低脂肪まである。マグロ、ササミ、マグロとヒラメ、アジ、しらす入り、チーズ入り等々。「ロースト牛肉のあらほぐし手作り風」「七面鳥のテリーヌ仕立て」「グリル風サーモンのシチュー仕立て」――レストラン並みだ。ご亭主より大事にされてるのじゃないか?
高級ブランドになると、缶は金色で小型、愛らしいラベル付き。ペットフードの缶詰は日本の会社名でも、製造は東南アジアだ。タイで、缶詰の原料のブリキ製造工場を営む社長の話。
「ブリキの缶詰は人間用、金色のアルミの缶詰は猫用。人間は缶詰の色なんか気にしないし、ブリキの方が丈夫。アルミは高いけど、曲げやすいから小さい缶詰に向く、飼い主は猫には高級感のあるものを買うからキラキラした色にする」
なるほど、レストラン風のキャットフードは、金色のアルミ缶だった。もちろんうちにも少しだけど置いてある。特別のごちそうとして。
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