No.273








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●♪もしも私が家を建てたなら〜という歌があった。もしも儂が家を建てるなら(そんな予定は皆無だけど)♪暖炉があるのよ〜じゃなくて、♪囲炉裏があるのよ〜ってことになる。
火を囲んで串差しの魚を焙り、火棚で燻し、五平餅を焙り、おやきや芋たちも灰まみれの埋め焼きにして食いたいのだ。自在鉤に吊るした鉄鍋でごった煮の汁を作って食いたいのだ。炉端での共食を、団欒を、楽しみたいのだ。生来囲炉裏のある暮らしとは無縁の儂である。昔の山小屋の…小屋の親父の狭い居室で、昔の鄙な湯宿や民宿で、偶々お世話になった山里のお宅で…と、まァそんな程度で、儂の囲炉裏体験は泣きたいくらい乏しい。(料理店や旅館なども、今時はおしゃれ感覚で新たに設える処もあるけれど、それは生活感が無いからまるで別もの)。儂の囲炉裏への憧れは歳を重ねる程にエスカレートする。その多面的機能はたぶん竪穴式に暮らす時代から受け継いできた知恵に違いない。変な話だけど、儂は机に向かうと何故か何かを飲みたくなり何かを摘まみたくなる。実は今おやきか五平餅が無性に食いたい。生憎とそのどちらも手元には無い。入手できる当てもないのだ。苛々しながら熱い茶を啜った。黒光りした囲炉裏の風景が連想的に脳裏を過った。そんな訳で唐突にスタートが囲炉裏話になってしまった。おやきにしても五平にしても、その食味体験は囲炉裏体験同様に極々乏しいのだが…にも拘らずあの素朴な風味が恋しくて仕方がない。差しあたりデパ地下の催事コーナーなどで探がすしかない。おやき好きが嵩じて脱サラし、あらぬ場所におやきの店を立ち上げた人もいるそうだ。ペンを置き「おやき・五平餅探がし」に出掛けるとするか――。

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