No.279







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●前回「タベルナ」の続編である。ずっと昔、一位(いちい)の木のあの小さな赤い実を摘まんで食べたことがある。はしたなくもペッペと種を吐きながら歩いた。もしそれを胃の中へ入れたりすれば大変な事になる…てことは、随分後になってから知った。樒(しきみ)の実は“悪しき実”だからタベルナであるが、あの変な形の実を八角(はっかく)と間違えて料理に使ってしまう人もいるとか…。毒空木(どくうつぎ)なんか態々「毒」と断っているのに、うっかり口にする人もいるらしい。野薔薇(のいばら)の実は毒にもなるしクスリにもなる。扱い方次第というわけだ。この手の“両刀遣い”の草木が結構多いようだ。洋風じゃっぱ汁や魚貝の炊き込み飯に使うサフラン(クロッカス)によく似たイヌサフランなる猛毒のやつがあるらしい。その毒成分がコルヒチン。同名の錠剤は儂の持病の特効薬で、若い時分より随分世話になっている。有毒植物の一覧表を繙(ひもと)いたら、オケラやトトキ(釣鐘人参)まで載っていたので驚いた。「山で旨いはオケラにトトキ…」と昔から謡われているように、その新芽は山菜の代表選手でもある。根に毒があるよし。毒というよりはむしろ生薬としてよく利用されて来たらしい。二輪草は食べられるけど一輪草はダメ。昼顔はOKなのに朝鮮朝顔(曼陀羅華)はアウトだ。《山牛蒡の漬物》なるものが市販されている。(牛蒡じゃなくて)正体は薊(あざみ)の根っこである。山野で山牛蒡や米国(アメリカ)山牛蒡を見付けても決して口にしてはいけない。毒芹は文字通りの事だが、根の形を見れば芹との違いは瞭然。何気なくそこら辺にある草々=黄や紫の花の華鬘(けまん)・狐ノ牡丹(きつねのぼたん)・竹似草(たけにぐさ)・草ノ王(くさのおう)・秋ノ麒麟草(あきのきりんそう)・曼珠沙華(まんじゅしゃげ/彼岸花)等々、身近なところにもキケンなヤツがいっぱい…というおはなし。

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