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日本には出汁としての素晴らしい食材が多々ある、その中でも昆布というのは本当に凄いと思う。もちろん、鰹節であっても煮干しであっても、はたまた鯖節だって大いに自慢出来るものである。出汁をとる文化は、世界のどこの国へ行っても存在するが、ほとんどが鶏、豚、牛、魚に限られている。料理によっては、野菜などの植物で味のベースを醸しだすが、海草を用いる料理は中国料理と韓国料理くらいのものではなかろうか。

中国料理は、海苔や昆布をスープなどに用いるが、極少数のような気がする。この事実は、中国ではあまり昆布が取れなかったからなのだろう。日本の昆布の輸出先には、一部中国があるとか。最近の中国は、昆布の養殖を盛んに奨励しているらしい。何しろ十三億の民を抱えているのだから、食材はいくらあってもよいのだろう。ところで、先のオリンピックのヨットの会場となる海に、アオサが異常発生し競技が出来ないほどであった。これを人海戦術で清掃し、何万トンもの生ゴミとして扱っていたが、いささかもったいないような気がしたものだ。

韓国も市場を訪れると昆布が売られていて、けっこう山積みされている。韓国では『うどん』も『そば』も『おでん』も多くの方が食べるから、昆布は欠かせない出汁の材料である。もっとも、これらの料理は日本占領時代の名残りだが…。ただ最近は、キムチに忍ばせたり、テンジャンチゲに用いたりしているから、昔からの食材だったのかも分らない。そういえば、市場の惣菜屋に昆布の佃煮キムチのようなものが売られていた。食べていないから何とも言えないが、あれは韓国料理であろう。そうそう、柔らかな若い昆布でご飯を包んだり、焼肉を包んだりもしていた。サンチュと全く同じ使い方であったから、生の昆布の利用法はむしろ日本より巧みかも知れない。何度も食べ、そのサッパリ感には驚いたものだ。日本でも、柔らかい生昆布をサラダ感覚で食べるとよいと思う。

Kubota Tamami
最近は世界でも昆布の栄養価値が見直され、徐々にではあろうが昆布を食べ始めるようになったとか。昆布の生産地というより、昆布が生えている国は日本近海の他、カナダやアラスカ、南半球ではチリやアルゼンチンの南極圏に近いところ、オーストラリアのタスマニア島にも生えていると聞いている。

英語で昆布をケルプというが、考えてみたらカナダの太平洋側にはケルプの森があり、ここが鮭や鱒の繁殖地になっている。かつて日本の業者が、カナダ沿岸のケルプに目を付け昆布として生産化しようとしたところ、環境破壊はまかりならんと許可が下りなかったとそうだ。しかしその業者、ニシンがケルプに卵を産むのを見つけ、極少量という条件で子持ち昆布の輸入に漕ぎつけたとか。今我々が珍重している子持ち昆布は、もしかしたらそれかも知れない。

しかし、日本ほど昆布を大切に扱う国は例がないだろう。かつて松前船が北海道から敦賀まで昆布を運び、その昆布が日本各地に売られていったという。その名残りなのだろう、敦賀には今でも昆布を扱う問屋さんが多く、そこから大阪や東京に出荷されているようだ。

その昆布の扱い方だが、北海道の羅臼(らうす)とか利尻(りしり)、尾札部(おさつべ)等々で採集・乾燥されたものを、もう一度丁寧に乾燥をし、産地別に梱包をして一年から三年間風通しのよい蔵の中で寝かせるそうである。その昆布を刃物で削いだのがおぼろ昆布、つまりトロロ昆布とよばれているもので、削ぎ落した後の昆布が白板と呼ばれ鯖寿司を包むものである。とまれ、出汁を取ったり昆布巻や佃煮にするだけなのだが、まるで芸術品を扱うように大事にする。ま、これが日本文化の素晴らしさでもあろう。


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