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夏を迎え、能古の畑生活もだんだんと慣れて来た。我が畑の土を、専門家に分析して頂いたところ、何とpHが七・三もあるとのこと。一般的な常識の範疇では、作物が育つのに最適なpHは六くらいではなかろうかという御意見であった。昔田んぼだったと言う我が菜園は、かなりの粘土質で砂の量もかなり多い。という次第で、雨が降った後は畑のぬかるみは半端ではない。が、一旦乾いてしまうとクワの刃も通らぬ程にガチガチに固まってしまう有様。練馬の黒土に慣れ切っていた我が夫婦は、しばらくの間はどうしてよいものか天を仰ぐ状態であった。

しかしである、色々と調べてみるとこうした土壌に適した作物もかなりあるのだ。例えば、葡萄とかの実を着ける果実には向いているようだ。
それに、根気よく堆肥や緑肥を施して行けば改善されるようである。土の特性を活かすところは大いに活用し、いいとこ取りをしていこうと決めた。それに前々から能古のトマトは大変旨いと言う話は聞いていた。だったら、トマトで勝負すればよいのである。
そう言えば、我が息子殿が、
「チチさん、能古って何だかシシリアっぽい感じがするよね。チチがそうやって椅子に座っていると、ゴットファザーみたいだよ」
「おいおい、それじゃー俺はトマト畑で死ぬのかい」
何て言う冗談を交わしたことがあった。

移住して間もなく、永年イタリアに住む友人が、サンマルツァーノという調理用のトマトの種をお祝にと下さった。
「イタリアには改良されたサンマルツァーノ種のトマトがあるけれど、この種はオリジナルのサンマルツァーノで門外不出のものだけど、今回こっそり持って来てあげたの。でも、うまく育つかなー、もし成功したら、それはそれはおいしいトマトペーストが出来ますよ」

Kubota Tamami

ものは試しにと、三月の終わり頃にプランターに種を蒔いたら、割に簡単に芽を出してくれた。しばらくしてポットに移し替えてみるとこれも順調に育ってくれた。桜が散って間もなく畑に本植え。が、今年の異常気候でかなり冷え込んだ。そこで、冷気から守る為に行灯仕立てにして見守る。やがて気候が暖かくなり、グングンと成長。幹は太いし、葉もしっかりとしている。と、思っているとあっと言う間に花が咲き、ポツリポツリと結実。二、三日放って置いたら、イタリア直輸入のトマトの缶詰めの絵のような、ゴツゴツとした縦長の実が着いているではないか。イタリアには梅雨はないだろうからと、雨で水分過多にならぬよう、半透明のビニールシートで屋根をかけた。これが功を奏したのか、病気にも罹らず逞しく育ってくれている。この調子だと梅雨が明ければ、シシリアっぽいトマトが実ってくれる予定。そして、本格的な夏ともなれば、大収穫が見込めるだろう…。

聞くところによると、イタリアではトマトは放任主義に徹し、日本のように過保護にはしないそうである。もしその方がよいのならばと、数本の苗を少し広い畑に放ったらかしで育ててみようと、実験用に植えてみた。こちらの方は少し後からだったので今一つ成長は遅いようだ。だが、心配する必要はないようだ。今の所、遅れてはいるがそれなりにすくすくと育ってくれているような気がする。もし、後者の方法がよいのならばこちらは有り難い。

来年は大々的にサンマルツァーノの畑を作り、ダン印のトマトソースを販売しようかな、何て言う大それた妄想が脳裏を横切る今日この頃。とまれ、自家製のサンマルツァーノをたっぷりと使ったパスタやカポナータが楽しめるではないか。そうなればだ、よしんばトマト畑で昇天したとしても本望。いやいや、願ったり叶ったりの人生ではあるまいか。



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