夏から初秋にかけての食べものに、とうもろこしがある。とうもろこしを漢字で書くと、「玉蜀黍」というかなり難しい字となるが、もともとは唐の国からきたもろこしが、いつの間にか玉蜀黍ということになったようだ。というより、正式に中国語では玉米(イーミィー)というらしい。中国語で玉は翡翠を意味するから、昔の中国ではとうもろこしを玉のような米と表現したに違いない。そのとうもろこしを日本に於いて漢字表記する際、調べてみると唐時代はおろか三国志の時代迄遡り、蜀の国のもろこし(黍)であることが判明し、玉米の玉を頭に被せて玉蜀黍と書き、無理矢理にとうもろこしと読ませたのではないかと推測する。だが、お隣の韓国ではオク・スゥ・スーというから、音から察すると玉蜀黍と書くのかも知れない。
ともあれ、とうもろこしは旨い。もぎたての未だ青臭いようなもろこしを、大鍋に用意した熱湯の中に入れ待つこと十五分から二十分。手に持つのが困難なほど熱いもろこしにかぶりつく、整然と並んだ宝石のような粒から、甘い香りと濃くのある旨味が口一杯に拡がり、季節の有り難さをしみじみと味わえる。とうもろこしをおいしく茹でるこつは、出来るだけ大きな鍋がよい。というのは、とうもろこしを鍋の中に入れると、一気に鍋の温度が下がってしまうからだ。と同時に、塩は天然のなるべくおいしいものを使うに限る。友人の中には、やれフランスの塩がいいとかドイツの岩塩がすこぶる旨い、とか言っているがあながち思い込みだけではなさそうだ。僕も、フィリッピン産の石蔵の塩という塩田で作られた塩を用いてから、確かに茹でものが旨くなったことを確信した。
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