岩室温泉にある《綿綿亭綿屋》は江戸・安永年間に、製綿業の傍ら開業したのでその名を持つ。海、山、里の自然に恵まれた安らぎの宿である。「旬の地の素材を使い、奇をてらったり、過度な演出を避け、素材と対話しながら、知恵や工夫、そして丁寧に正直に調理する」料理への館主の思いである。

表紙の写真は、その意を汲む料理長が手間暇かけ、丹精こめて作るからすみである。
「からすみは、毎年お正月の料理のために10月中旬頃から塩を含ませたあと、写真のように何回も何回も晩秋・冬と天日干しをして作ります。そして、あのなんとも言えない濃厚な旨味のからすみが出来上がります。弊館では、毎年恒例のようにこのようにして作り上げますが、ある年には、一番に食したお客様はなんと、近所の猫でした。きっとあの味には、病み付きになったのではと心配しております。このからすみは、年越しから1月中の懐石料理「慈」をご希望のお客様にお出ししております。やはりいい地酒との相性は、言うまでもありませんね。日本人に生まれて良かったと思う料理のひとつです」と館主が話してくれた。

■写真撮影:《綿綿亭 綿屋》新潟市西蒲区岩室温泉581
TEL.0256-82-2030